オ、湧き上り、
おもむろに、肩をばいからせ、おそろしや、
彼等の穿けるズボンさへ、むツく/\とふくれます。

さて彼等、禿げた頭を壁に向け、
打衝《ぶちあ》てるのが聞こえます、枉がつた足をふんばつて
彼等の服の釦《(ボタン)》こそ、鹿ノ子の色の瞳にて
それは廊下のどんづまり、みたいな眼付で睨めます。

彼等にはまた人殺す、見えないお手《てて》がありまして、
引つ込めがてには彼等の眼《め》、打たれた犬のいたいたし
眼付を想はすどす黒い、悪意を滲《にじ》み出させます。
諸君はゾツとするでせう、恐ろし漏斗に吸込まれたかと。

再び坐れば、汚ないカフスに半ば隠れた拳固《げんこ》して、
起《た》たさうとした人のこと、とつくり思ひめぐらします。
と、貧しげな顎の下、夕映《ゆふばえ》や、扁桃腺の色をして、
ぐるりぐるりと、ハチきれさうにうごきます。

やがてして、ひどい睡気が、彼等をこつくりさせる時、
腕敷いて、彼等は夢みる、結構な椅子のこと。
ほんに可愛いい愛情もつて、お役所の立派な室《へや》に、
ずらり並んだ房の下がつた椅子のこと。

インキの泡がはねツかす、句点《コンマ》の形の花粉等は、
水仙菖の線真似る、蜻蛉《とんぼ》の飛行の如くにも
彼等のお臍のまはりにて、彼等をあやし眠らする。
――さて彼等、腕をもじ/\させまする。髭がチクチクするのです。
[#改ページ]

 夕べの辞


私は坐りつきりだつた、理髪師の手をせる天使そのままに、
丸溝のくつきり付いたビールのコップを手に持ちて、
下腹突き出し頸反らし陶土のパイプを口にして、
まるで平《たひら》とさへみえる、荒模様なる空の下。

古き鳩舎に煮えかへる鳥糞《うんこ》の如く、
数々の夢は私の胸に燃え、徐かに焦げて。
やがて私のやさしい心は、沈欝にして生々《なま/\》し
溶《とろ》けた金のまみれつく液汁木質さながらだつた。

さて、夢を、細心もつて嚥《(の)》み下し、
身を転じ、――ビール三四十杯を飲んだので
尿意遂げんとこゝろをあつめる。

しとやかに、排香草《ヒソフ》や杉にかこまれし天主の如く、
いよ高くいよ遐《(とほ)》く、褐色の空には向けて放尿す、
――大いなる、ヘリオトロープにうべなはれ。
[#改ページ]

 教会に来る貧乏人


臭い息《いき》にてむツとする教会の隅ツこの、
樫材《かし》の床几《(しやうぎ)》にちよ
前へ 次へ
全43ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ランボー ジャン・ニコラ・アルチュール の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング