Oにて、
腰掛や奇妙な寝椅子等、暗い四隅《よすみ》に
蹲《(うづく)》まる。食器戸棚はあくどい慾に
満ちた睡気をのぞかせる歌手《うたひて》達の口を有《(も)》つ

いやな熱気は手狭《てぜま》な部屋を立ち罩《こ》める。
お人好し氏の頭の中は、襤褸布《ぼろきれ》で一杯で、
硬毛《こはげ》は湿つた皮膚の中にて、突つ張るやうで、
時あつて、猛烈|可笑《(をか)》しい嚏《(くさめ)》も出れば、
がたがたの彼氏の寝椅子はゆれまする……

     ★

その宵、彼氏のお臀《しり》のまはりに、月光が
光で出来た鋳物の接合線《つぎめ》を作る時、よく見れば
入り組んだ影こそ蹲《しやが》んだ彼氏にて、薔薇色の
雪の配景のその前に、たち葵《(あふひ)》かと……
面白や、空の奥まで、面《つら》はヴィーナス追つかける。
[#改ページ]

 坐つた奴等


肉瘤《こぶ》で黒くて痘瘡《あばた》あり、緑《あを》い指環を嵌めたよなその眼《まなこ》、
すくむだ指は腰骨のあたりにしよむぼりちぢかむで、
古壁に、漲る瘡蓋《かさぶた》模様のやうに、前頭部には、
ぼんやりとした、気六ヶ敷さを貼り付けて。

恐ろしく夢中な恋のその時に、彼等は可笑しな体躯《からだ》をば、
彼等の椅子の、黒い大きい骨組に接木《つぎき》したのでありました。
枉がつた木杭さながらの彼等の足は、夜《よる》となく
昼となく組み合はされてはをりまする!

これら老爺《ぢぢい》は何時もかも、椅子に腰掛け編物し、
強い日射しがチクチクと皮膚を刺すのを感じます、
そんな時、雪が硝子にしぼむよな、彼等のお眼《めめ》は
蟇《ひきがへる》の、いたはし顫動《ふるへ》にふるひます。

さてその椅子は、彼等に甚だ親切で、褐《かち》に燻《いぶ》され、
詰藁は、彼等のお尻の形《かた》なりになつてゐるのでございます。
甞て照らせし日輪は、甞ての日、その尖に穀粒さやぎし詰藁の
中にくるまり今も猶、燃《とも》つてゐるのでございます。

さて奴等、膝を立て、元気盛んなピアニスト?
十《じふ》の指《および》は椅子の下、ぱたりぱたりと弾《たた》きますれば、
かなし船唄ひたひたと、聞こえ来るよな思ひにて、
さてこそ奴等の頭《おつむり》は、恋々として横に揺れ。

さればこそ、奴等をば、起《た》たさうなぞとは思ひめさるな……
それこそは、横面《よこづら》はられた猫のやう、唸りを発
前へ 次へ
全43ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ランボー ジャン・ニコラ・アルチュール の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング