[ルでバタサンドヰッチと、ハムサンドヰッチを私は取つた、
ハムの方は少し冷え過ぎてゐた。

好い気持で、緑のテーブルの、下に脚を投出して、
私は壁掛布《かべかけ》の、いとも粗朴な絵を眺めてた。
そこへ眼の活々とした、乳房の大きく発達した娘《こ》が、
――とはいへ決していやらしくない!――

にこにこしながら、バタサンドヰッチと、
ハムサンドヰッチを色彩《いろどり》のある
皿に盛つて運んで来たのだ。

桃と白とのこもごものハムは韮の球根《たま》の香放ち、
彼女はコップに、午後の陽をうけて
金と輝くビールを注いだ。
[#地付き]〔一八七〇、十月〕
[#改ページ]

 『皇帝万歳!』の叫び共に贏《(か)》ち得られたる
 花々しきサアルブルックの捷利


[#地付き]三十五サンチームにてシャルルロワで売つてゐる色鮮かなベルギー絵草紙

青や黄の、礼讃の中を皇帝は、
燦たる馬に跨つて、厳《いか》しく進む、
嬉しげだ、――今彼の眼《め》には万事が可《よ》い、――
残虐なることゼウスの如く、優しきこと慈父の如しか。

下の方には、歩兵達、金色《こんじき》の太鼓の近く
赤色《せきしよく》の大砲《ほづつ》の近く、今し昼寝をしてゐたが、
これからやをら起き上る。ピトウは上衣を着終つて、
皇帝の方に振向いて、偉《おほ》いなる名に茫然自失《ぼんやり》してゐる。

右方には、デュマネエが、シャスポー銃に凭《もた》れかゝり、
丸刈の襟頸《えりくび》が、顫へわななくのを感じてゐる、
そして、『皇帝万歳!』を唱へる。その隣りの男は押黙つてゐる。

軍帽は恰《(あたか)》も黒い太陽だ!――その真ン中に、赤と青とで彩色された
いと朴訥なボキヨンは、腹を突き出し、ドツカと立つて、
後方部隊を前に出しながら、『何のためだ?……』と云つてるやうだ。
[#地付き]〔一八七〇、十月〕
[#改ページ]

 いたづら好きな女


ワニスと果物の匂ひのする、
褐色の食堂の中に、思ふ存分
名も知れぬベルギー料理を皿に盛り、
私はひどく大きい椅子に埋まつてゐた。

食べながら、大時計《オルロージュ》の音を聞き、好い気持でジツとしてゐた。
サツとばかりに料理場の扉《と》が開くと、
女中が出て来た、何事だらう、
とにかく下手な襟掛をして、ベルギー・レースを冠つてゐる。

そして小さな顫へる指で、
桃の肌へのその頬を絶えずさは
前へ 次へ
全43ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ランボー ジャン・ニコラ・アルチュール の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング