Vをあやします。
――私は学生よろしくの身装《みなり》くづした態《ざま》なんです、
緑々《あを/\》としたマロニヱの、下にははしこい娘達、
彼女等私をよく知つてゐて、笑つて振向いたりします
その眼付にはいやらしい、要素も相当あるのです。
私は黙つてゐるのです。私はジツと眺めてる
髪束《かみたば》が風情をあたへる彼女等の、白《しろ》い頸《うなじ》。
彼女等の、胴衣と華車《ちやち》な装飾《かざり》の下には、
肩の曲線《カーブ》に打つづく聖《(きよ)》らの背中があるのです。
彼女等の靴も私はよく見ます、靴下だつてよく見ます。
扨美しい熱もゆる、全身像を更めて、私は胸に描きます。
彼女等私を嗤ひます、そして低声《(こごゑ)》で話し合ふ。
すると私は唇に、寄せ来る接唇《ベーゼ》を感じます。
[#地付き]〔一八七〇、八月〕
[#改ページ]
喜劇・三度の接唇
彼女はひどく略装だつた、
無鉄砲な大木は
窓の硝子に葉や枝をぶツつけてゐた。
意地悪さうに、乱暴に。
私の大きい椅子に坐つて、
半裸の彼女は、手を組んでゐた。
床《ゆか》の上では嬉しげに
小さな足が顫へてゐた。
私は視てゐた、少々顔を蒼くして、
灌木の茂みに秘《ひそ》む細かい光線が
彼女の微笑や彼女の胸にとびまはるのを。
薔薇の木に蠅が戯れるやうに、
私は彼女の、柔かい踝《くるぶし》に接唇した、
きまりわるげな長い笑ひを彼女はした、
その笑ひは明るい顫音符《トリロ》のやうにこぼれた、
水晶の擢片《かけら》のやうであつた。
小さな足はシュミーズの中に
引ツ込んだ、『お邪魔でしよ!』
甘つたれた最初の無作法、
その笑は、罰する振りをする。
かあいさうに、私の唇《くち》の下で羽搏《(はばた)》いてゐた
彼女の双の眼《め》、私はそおつと接唇けた。
甘つたれて、彼女は後方《うしろ》に頭を反らし、
『いいわよ』と云はんばかり!
『ねえ、あたし一寸云ひたいことあつてよ……』
私はなほも胸に接唇、
彼女はけた/\笑ひ出した
安心して、人の好い笑ひを……
彼女はひどく略装だつた、
無鉄砲な大木は
窓の硝子に葉や枝をぶツつけてゐた
意地悪さうに、乱暴に。
[#地付き]〔一八七〇、九月〕
[#改ページ]
物語
※[#ローマ数字1、1−13−21]
人十七にもなるといふと、石や金《かね》ではありません
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