ス。
――フツフツフツ! タルチュッフ様は丸裸か。
[#地付き]〔一八七〇、七月〕
[#改ページ]

 海の泡から生れたヴィナス


ブリキ製の緑の棺からのやうに、褐色の髪に
ベトベトにポマード附けた女の頭が、
古ぼけた浴槽の中からあらはれる、どんよりと間の抜けた
その顔へはまづい化粧がほどこされてゐる。

脂《あぶら》ぎつた薄汚い頸《くび》、幅広の肩胛骨《かひがらぼね》は
突き出てゐるし、短い脊中はでこぼこだ。
皮下の脂肪は、平らな葉のやう、
腰の丸みは、飛び出しさうだ。

脊柱《せすぢ》は少々赤らんでゐる、総じて異様で
ぞつとする。わけても気になる
奇態な肉瘤《こぶ》。

腰には二つの、語が彫つてある、Clara Venus と。
――胴全体が大きいお尻を、動かし、緊張《ひきし》め、
肛門の、潰瘍は、見苦しくも美しい。
[#改ページ]

 ニイナを抑制するものは


      彼曰く――

そなたが胸をばわが胸の上《へ》に、
   そぢやないか、俺等《おいら》は行かうぜ、
鼻ン腔《あな》アふくらましてヨ、
   空ははればれ

朝のお日様アおめへをうるほす
   酒でねえかヨ……
寒げな森が、血を出してらアな
   恋しさ余つて、

枝から緑の雫を垂れてヨ、
   若芽出してら、
それをみてれアおめへも俺も、
   肉が顫はア。

苜蓿《(うまごやし)》ン中おめへはブツ込む
   長《なげ》エ肩掛、
大きな黒瞳《くろめ》のまはりが青味の
   聖なる別嬪、

田舎の、恋する女ぢやおめへは、
   何処へでも
まるでシャンペンが泡吹くやうに
   おめへは笑を撒き散らす、

俺に笑へよ、酔つて暴れて
   おめへを抱かうぜ
こオんな具合《ぐえイ》に、――立派な髪毛ぢや
   嚥んでやらうゾ

苺みてエなおめへの味をヨ、
   肉の花ぢやよ
泥棒みてエにおめへを掠める
   風に笑へだ

御苦労様にも、おめへを厭《いと》はす
   野薔薇に笑へだ、
殊には笑へだ、狂つた女子《あまつこ》、
   こちのひとへだ!……

十七か! おめへは幸福《しやはせ》。
   おゝ! 広《ひれ》エ草ツ原、
素ツ晴らしい田舎!
   ――話しなよ、もそつと寄つてサ……

そなたが胸をばわが胸の上《へ》にだ、
   話をしいしい
ゆつくりゆかうぜ、大きな森の方サ
   雨水《あまみづ
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