蛮民等はジュギュルタが、あらゆる隙《すき》に乗ぜんとせり
当時世に、彼等に手向ふものとてなかりし!……
彼はアラビヤの山多き地方に生れた、彼は健《すこや》かに
軟風《そよかぜ》の云ふを聞けば、※[#始め二重括弧、1−2−54]これはこれジュギュルタが孫!……※[#終わり二重括弧、1−2−55]
我こそは羅馬の国土に乗り込めり、
その都までも。ニュミイドよ! 汝《なれ》が額に
我|平手打《ひらてうち》を啖《くら》はせり、我は汝等《なれら》傭兵ばらを物の数とも思はざり。
茲にして彼等久しく忘れゐたりし武器を執り、
我亦立つて之に向へり。我は捷利を思はざり、
唯に羅馬に拮抗せんことこそ思へり!
河に拠り、巌嶮《いはほ》に拠りて、我敵軍に対すれば、
敵|勢《ぜい》は、リビイの砂原《すなはら》、或《ある》はまた、丘上の角面堡より攻めんとす。
敵軍の血はわが野山蔽ひつつ、
我がなみならぬ頑強に、四分五裂となりやせり……
彼はアラビヤの山多き地方に生れた、彼は健《すこや》かに
軟風《そよかぜ》の云ふを聞けば、※[#始め二重括弧、1−2−54]これはこれジュギュルタが孫!……※[#終わり二重括弧、1−2−55]
※[#始め二重括弧、1−2−54]恐らくは我敵|方《かた》の、歩兵隊をも敗りたらむを……
此の時ボキュスが裏切りに遇ひ……思ひ返すも徒《あだ》なれど、
されば我、祖国《くに》も王位も棄て去りて、
羅馬に謀反《むほん》をせしといふ、ことに甘んじてゐたりけり。
さても今|復《また》フランスは、アラビヤの、都督を伐《(う)》ちて誇れるも……
汝《なんぢ》、我が子よ、汝《いまし》もし、此の難関に処しも得ば、
汝《なれ》こそはげにそのかみの、我がため仇を報ずなれ。いざや戦へ!
去《い》にし日の、我等が勇気、今は汝《な》が、心に抱き進めかし、
汝《なれ》等が剣《つるぎ》振り翳せ! ジュギュルタをこそ胸に秘め、
居並ぶ敵を押返し! 国の為なり血を流せ!
おお、アラビヤの獅子共も、此の戦ひに参ぜかし!
鋭き汝《なれ》等が牙をもて、敵の軍勢裂きもせよ!
栄《さかえ》あれ! 神冥の加護|汝《なれ》にあれ!
アラビヤの恥、雪《そゝ》げかし!……※[#終わり二重括弧、1−2−55]
かくて幻影消えゆけば、幼な子は、青竜刀の玩具《おもちや》もて、遊び興じてゐたりけり……
※[#ローマ数字2、1−13−22]
ナポレオン! おお! ナポレオン!(1) 此の今様のジュギュルタは、
打負かされて、縛られて、幽閉《おしこ》められて暮したり!
茲にジュギュルタ更《あらた》めて、夢の容姿《かたち》にあらはれて
此の今様のジュギュルタにいとねむごろに云へるやう、
※[#始め二重括弧、1−2−54]新らしき神に来れかし! 汝が災害を忘れかし、
佳き年《とし》今やめぐり来て、フランス汝《なれ》を解放せん……
汝《なれ》は見るべし、フランスの治下に栄ゆるアルジェリア!……
汝《なれ》は容るべし、寛大の、このフランスの条約を、
世に並びなき信仰と、正義の司祭フランスの……
愛せよ、汝がジュギュルタを、心の限り愛すべし
さてジュギュルタが命数を、つゆ忘れずてありねかし
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註(1)アムボワーズの城に幽閉されたりしアブデルカデルは ナポレオン三世の手によりて釈放されたり 時に千八百五十二年
[#ここで字下げ終わり]
※[#ローマ数字3、1−13−23]
これぞこれ、汝《な》に顕れしアラビヤが祖国《くに》の精神《こころ》ぞ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]
[#地から16字上げ]千八百六十九年七月二日
[#地から8字上げ]シャルルヴィル公立中学通学生
[#地から1字上げ]ランボオ・ジャン・ニコラス・アルチュル
[#改ページ]
5 Tempus erat
その頃イエスはナザレに棲んでゐた。
成長に従つて徳も亦漸く成長した。
或る朝、村の家々の、屋根が薔薇色になり初《そ》める頃、
父ジョゼフが目覚める迄に、父の仕事を仕上げやらうと思ひ立ち、
まだ誰も、起きる者とてなかつたが、彼は寝床を抜け出した。
早くも彼は仕事に向ひ、その面容《おもざし》もほがらかに、
大きな鋸《(のこ)》を押したり引いたり、
その幼い手で、多くの板を挽いたのだつた。
遐《とほ》く、高い山の上に、やがて太陽は現れて、
その眩《まぶ》しい光は、貧相な窓に射し込んでゐた。
牛飼達は牛を牽《ひ》き、牧場の方に歩みながら、
その幼い働き手を、その朝の仕事の物音を、てんでに褒めそやしてゐた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]あの子はなんだらう、と彼等は云つた。
綺麗にも綺麗だが、由々しい顔をしてゐるよ。力は腕から迸つてゐる。
若いのに
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