上をきずきあげる手だてもなかったわけだ。他人というものを、わしは大して信用もしないし、ましてや愛などというものに至っては、ひとさまの読む小説本とやらいうものの中に書いてあると聞くだけのことで、正直の話わしはいつも、人間はみんなお銭《あし》をほしがるものだと考えていた。上の娘をやった二人の婿さんたちに、わしは持参金をつけてやらなかったが、果せるかな、あの二人はわしを恨みに思って、いつかな細君をわしのところへよこしたがらない。どんなもんだろうな、――あの婿さんたちとこのわしと、一体どっちが真《ま》人間らしいかな? わしはなるほど、奴さんたちに銭《ぜに》こそやらなかったが、奴さんたちと来た日にや、親子の情合いに水をさそうというのだ。ところでわしは、あの二人にや一文だってやることじゃないけれど、お前さんにや、財布のひもをゆるめて、ひと奮発させて貰おうわい! そうとも! いや、今この場で早速、ひと奮発させて貰いましょ!』――といったわけでしてね、まあこれを見てください!」
 と弟のやつ、五万ルーブリの手形を三枚、僕たちに出して見せたのさ。
「へええ」と僕はあきれて、「それをみんな、細君にやれとの
前へ 次へ
全41ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
レスコーフ ニコライ・セミョーノヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング