――いいから見てごらん、見てごらん!』
 そこで虫めがねを当ててみると、そのパチンの一ばん目につかないところに、模造真珠《ブルギニヨン》というフランス文字が、毛彫りになっていました。
 ――得心が行ったかな、これがほんとに似せものの真珠だということに?』
 ――わかりました。』
 ――そこで、わしに何か言いたいことはないかな?』
 ――さっき申しあげた通りです。というのはつまり、僕としては痛くも痒くもないということです。もっとも、たった一つお願いがあるんですが……』
 ――いいとも、いいとも、遠慮なく言うがいい!』
 ――これをマーシャには黙っていて頂きたいんですが。』
 ――ほう、それはまたどうしてかな?』
 ――ただそれだけです。……』
 ――いや、その謂われが聞きたいのだ。あれにがっかりさせたくないとお言いなのかい?』
 ――ええ、まあ、それもあるんですけど。』
 ――まだそのほかに何かあるのかい?』
 ――ええ、じつはもう一つ、あれの胸の底に、なにかお父さんにたいする反感のようなものが、芽ばえては困ると思うんです。』
 ――お父さんにたいする反感?』
 ――ええ。』
 ――
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