い掛布で蓋ごとすっぽり蔽われている大きな棺を見ることだった。フェージャの額ぎわには、聖像を描いた繻子のきれが載っていて、頭蓋骨を解剖したあとに残った赤い傷痕を隠していた。警察医が解剖し結果、フェージャは窒息死をとげたものと判明したが、やがて死体の前へ引きだされたセルゲイは、おそろしい最後の審判のことや、悔い改めぬ者たちにくる刑罰のことを、坊さんがやおら説きはじめると、忽ちさめざめと涙をながして、フェージャ殺しを正直に白状に及んだばかりでなく、埋葬の手続きもとらずに彼が埋めてしまったジノーヴィー・ボリースィチを掘り出して頂きたいと願いでた。カテリーナ・リヴォーヴナの良人の死体は、乾いた砂の中に埋められていたのでまだ腐れ切ってはいなかった。そこで引っぱり出して、大きな棺に納めた。この二つの犯罪の共謀者としてセルゲイが挙げたのはほかならぬ若い内儀《かみ》さんの名だったので、世間はふるえあがってしまった。カテリーナ・リヴォーヴナはいくら訊問されてもただもう『知らぬ存ぜぬ』の一点ばりだった。そこでセルゲイに対決させて、彼女の口を割らせることになった。男の自白をききおわると、カテリーナ・リヴォーヴ
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