一人の若い衆が説明した。それは鼻っ柱のつよそうな、きれいな顔をした男で、漆のように黒ぐろとした渦まき髪と、やっと生えかけたちょび髯が、その顔をふちどっている。
するとその時、秤杆《はかりざお》へ吊るさげたメリケン樽のなかから、おさんどんのアクシーニヤの血色のいいハチきれそうな豚づらが、ぬうっとのぞいた。
「ええ、忌々しいよ、のっぺり面の極道者めらが!」と、おさんどんは口汚なく罵りながら、なんとか鉄の杆《さお》にとっつかまって、ぐらぐらする樽から脱け出そうと懸命だった。
「夕飯前でも結構三十五貫と出たぜ。これで大籠いっぱい乾草を平らげようもんなら、分銅の方が追っつかねえや!」と、またもや美男の若い衆が口上を述べて、樽をぐいとかしげざま、片隅に積んであった叺《かます》のうえへ、おさんどんをどさりと抛りだした。
おさんどんは冗談はんぶん悪口雑言をならべながら、みだれた髪や衣裳をつくろいはじめた。
「ねえちょいと、わたしはどのくらい掛かるかしら?」とカテリーナ・リヴォーヴナは茶目気をだして、縄につかまると、ひょいと台の上へとび乗った。
「十四貫八百」とおなじ美男の若い衆セルゲイは、分銅を皿
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