へ投げこんで、そう報告すると、――「へ、呆れたもんだ!」
「何をお前さん呆れたんだい?」
「だって、おかみさんが十五貫もあるなんてさ、ねえカテリーナ・イリヴォーヴナ。あっしは、こう思うんですがね、――よしんばまる一んち、おかみさんを両手で抱《だ》っこしていろって言われたところで、どだいもう苦になるどころか、ただもうぞくぞく嬉しいばかりだろうってね。」
「ひどいよ、まるでわたしが人間じゃないみたいにさ、ええ? そのくせ、いざ抱《だ》っこしてみたところが、やっぱしへとへとになったってね」と、絶えて久しくそんな軽口を耳にせずにいたカテリーナ・リヴォーヴナは、ぽっと耳の根を紅らめながらひとまずそうやり返したが、と同時にむらむらっと、思いっきり陽気な無駄口をたたいてみたい、冗談口の限りをつくしてみたいと、そんな慾望が湧いたのである。
「とんでもねえ! この世の極楽だというアラビヤくんだりまでだって、立派に抱いて行ってお目にかけまさあ」とセルゲイは、こっちも負けず言い返した。
「お前さんの考えは、なあ若えの、どうやらまっとうじゃねえぜ」と、粉を袋へ移していた小百姓が言った、――「おいらにさ、なんの
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