、カテリーナ・リヴォーヴナは考えた。――『ええ、いっそ思いきっておみこしを上げて、中庭をひと歩きしてみるか、それとも庭の方へでも行ってみるとしよう。』
 そこでカテリーナ・リヴォーヴナは、花模様のついた緞子の古外套をひっかけると、おもてへ出ていった。
 そとはさんさんと明るい日ざしで、深ぶかと胸いっぱい息がつけた。穀倉の前の差掛《さしかけ》のところで、いかにも面白そうな笑い声がしている。
「何がそんなに面白いのさ?」とカテリーナ・リヴォーヴナは、舅の使っている番頭衆に問いかけた。
「なにしろお内儀《かみ》さん、ぴんぴん生きた牝豚の目方をはかろうって言うんでございますよ、はい、エカテリーナ・イリヴォーヴナ」([#ここから割り注]訳者註。リヴォーヴナの頭にイを添えたのは一種馬鹿丁寧な下品な呼び方[#ここで割り注終わり])と、年寄りの番頭がいんぎんに答えた。
「牝豚って、一体なんのことなの?」
「つまりこうでさあ、アクシーニヤという牝豚のことなんでさ。やっこさん、めでたく息子のヴァシーリイを産み落としたのはいいが、おいらを洗礼祝いに招《よ》んでくれなかったんでねえ」と、悪びれぬ陽気な調子で、
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