しなかった。ジノーヴィー・ボリースィチは近隣の在所の人手をのこらず製粉所へ駆りだして、自分も夜ひるわかたず現場に附きっきりだった。町の方の仕事はすっかり老人ひとりで切り盛りすることになって、カテリーナ・リヴォーヴナは来る日も来る日も日がな一日、独りぼっちの味気なさをかこつことになった。はじめのうち彼女には、良人のいないのがいささか手持ぶさたに思われたけど、やがて結句その方がましなような気がしてきた。ひとりの方が気楽になったのである。もともと大して恋しいほどの相手ではなし、おまけに良人が留守なら留守で、とにかく御目付け役が一人がた減ろうというものである。
 ある日カテリーナ・リヴォーヴナは、例の屋根裏の小窓のそばに陣どって、これといって物を考えるでもなく、さかんにあくびを連発していたが、やがての果てにあくびをするのが吾ながら恥ずかしくなった。おもてはなんとも言えぬ上天気だった。ぽかぽかして、明るくって、陽気で、――庭の緑いろに塗った柵のすきからは、小鳥が嬉々として枝から枝へ樹から樹へ、とび移っているすがたが見てとられた。
『ほんとに、なんだってまあこう、あくびばかし出るんだろうねえ?』と
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