ヤの味気なさ、商家の昼の辛気くささで、いっそ首でもくくった方がましだと、下世話にもいうあれである。カテリーナ・イヴォーヴナは読書の趣味がなかったし、それにだいいち本というしろものが、キーエフ聖者伝一冊のほかには、家じゅうどこを捜したって見つからない始末なのである。
 カテリーナ・リヴォーヴナが、裕福な舅の家で、不愛想な良人につれそって、五年という年つきを送った明け暮れは、ざっと以上のようなわびしいものだった。かといって誰一人、そうした彼女のわびしさに、些かたりとも注意を向ける者のなかったことも、これまた浮世のならいにはちがいなかった。

      ※[#ローマ数字2、1−13−22]

 カテリーナ・リヴォーヴナが嫁に来て六度目の春のこと、イズマイロフ家の持っている製粉所の堤が決潰した。折も折、まるでわざと狙ったように、製粉所は仕事で満腹のていだったし、おまけに決潰の個所が案外に大きくて、修理もなかなかはかが行かなかった。水かさは、空っぽになった放水溝の土台をさえ下※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る始末で、その水かさを手っとり早く上げようと色々苦心はしてみたが、いつかな成功
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