が、玄関をとり巻いている群衆の頭ごしに見渡すと、高い塀を乗り越え引っ越え一波また一波と、見知らぬ連中が屋敷うちへなだれ込んでくる。往来はまた往来で、人ごえが一つの呻き声になって立っている。
 カテリーナ・リヴォーヴナが呆気にとられているうちに、玄関をかこんでいた群衆は彼女をもみくしゃにして、どっと室内へ押し戻してしまった。

      ※[#ローマ数字12、1−13−55]

 ところでこの大騒ぎは、じつはこういうわけだった。――年に十二の大祭日の前夜におこなわれる晩祷には、たかだか郡役所のある町にすぎぬとはいえ、カテリーナ・リヴォーヴナの住んでいるようなかなり大きな工業都市になると、教会という教会はぎっしり人波でうずまるのであったが、しかもそれが、あす祭壇のしつらえられる教会だと、境内は林檎の実ひとつ落ちる隙もなくなってしまう。そこでは通例として、商家の若者から選抜された唱歌隊が、おなじく声楽のアマチュアの中から選ばれた特別の音頭とりに率いられて歌うことになっている。
 わが国びとは信心ぶかく、教会がよいがなかなか熱心であるが、したがってまた、それ相応に芸術ずきでもある。けだし教会
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