つけて、ううんと一こえ、いきなり下へ転がり落ちた。迷信も手つだった恐怖のあまり、まったく無我夢中だった。
「ジノーヴィー・ボリースィチ、ジノーヴィー・ボリースィチ!」と、彼は呟きながら、まっさかさまに階段をころげ落ちるのだったが、その拍子にカテリーナ・リヴォーヴナも足をさらわれて、とんだ道づれにされたのである。
「どこにさ?」と彼女がたずねた。
「そら、あっしらの頭のうえを、鉄板を持って飛んで行きやしたぜ。そらそら、また来た! うわあ!」と、セルゲイがさけぶ。――「鳴りだした、また鳴りだした!」
もうその頃は、事情はすこぶるはっきりしていた。つまり大勢の人が手んでに窓を表から叩いているのだ。なかには玄関の戸を押し破ろうとしている者もある。
「馬鹿だね! お起き、みっともない!」と、カテリーナ・リヴォーヴナはどなりつけると、その声の終らぬうちにいっさんにフェージャのところへとって返し、少年の死首をいかにも自然に眠っているような恰好に枕のうえに安置してから、群衆が押しこもうと犇めきあっている玄関の戸を、しっかりした手で明けはなった。
見るもすさまじい光景だった。カテリーナ・リヴォーヴナ
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