なんです。神様に仕えるっていうのは、なるほどあれでこそ本当なんですね。」
カテリーナ・リヴォーヴナは黙然と立っていた。
「ねえおばさん、そこへお掛けにならない、僕もう一ぺん読んであげるから。いいでしょう?」と、甥は甘えかかった。
「ちょっと待って。今すぐ、広間のお灯明を直して来ますからね」と、カテリーナ・リヴォーヴナは答えるなり、いそぎ足で出ていった。
やがて客間で、じつに微かなひそひそ声がした。だがそのささやきは、何せあたりが森閑としているものだから、子供のさとい耳につたわって来た。
「おばさん! それなあに? そこで誰と、そんなひそひそ声で話してるの?」と、少年は涙ごえで呼びかけた。――「ここへいらっしゃいよ、おばさん。僕こわい。」
そう、一秒ほどすると少年はまた追っかけて、これはもう殆ど泣き声になって呼んだが、と同時にカテリーナ・リヴォーヴナが客間で『さあ!』と言ったのが聞え、少年はそれを自分に掛けられた声かと思った。
「何がこわいのさ?」とカテリーナ・リヴォーヴナは、決然たる足どりでつかつかとはいって来ながら、なにか嗄れたような声で問いかけて、そのまま客間のドアをわが身で
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