ナ・リヴォーヴナがはいってくるのを見ると、ぎくりとして、本を膝へとり落した。
「どうかしたの、フェージャ?」
「ああ、おばさん、僕ただ、なんだかびっくりしたの」と少年は、おずおずと頬笑みながら答えて、ベッドの隅へ身をにじらせた。
「何をびっくりしたのさ?」
「だって、誰か一緒にきたんじゃなかった、おばさん?」
「どこに? 誰も一緒になんか来やしませんよ。」
「だあれも?」
少年はベッドの裾の方へ伸びあがって、眼をほそめて、今しがたおばさんのはいって来たドアの方角を眺めたが、それで安心がいったらしい。
「きっと、そんな気がしただけだったのね」と、少年は言った。
カテリーナ・リヴォーヴナは立ちどまると、甥のベッドの枕もとの屏風《びょうぶ》板に両肘をついた。
フェージャはおばさんの顔を振り仰いで、なんだかひどく顔色がわるいのねと言った。
そう図星を指されてカテリーナ・リヴォーヴナは、出まかせに空咳を一つしてみせ、期待のまなこで客間のドアを見やった。そこではただ床板が、みしりと微《かす》かに鳴っただけだった。
「今ね、ぼくの守り神の聖フェオドル・ストラチラートの一代記を、読んでるところ
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