その一方、まだ頑是ない共同相続人のフェージャ・リャーミンは、ふわりとした栗鼠の外套を着て、屋敷うちをぶらついたり、水たまりに張った薄氷を割ったりしていた。
「あれまあ、坊っちゃん! あれまあ、フョードル・イグナーチエヴィチ!」と、おさんどんのアクシーニヤが中庭を小走りに抜けながら、頓狂な小言をいうのだった、――「れっきとした商家の坊っちゃんのくせしてさ、いけませんよ、水たまりを掘ったりなすっちゃ!」
 ところがこの共同相続人たるや、自分がカテリーナ・リヴォーヴナやその意中の人にとって、それほど目の上のたん瘤だろうなどとは露知らず、あどけない仔山羊のようにただもう跳ね※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]っているばかり、且つはまた夜ともなれば、おもり役のおばあさんの胸にもぐり込んで、更に一そうあどけない眠りに落ちて、この自分が誰かの邪魔になったり、その仕合わせを削《けず》ったりしていようなどとは、夢にも思いも考えもしない始末だった。
 やがての果てに、フェージャは水疱瘡にかかり、そのうえに感冒性の胸の痛みが併発して、そこで少年は病いの床についた。はじめは薬草だ本草だと手をつくしてみた
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