つけるのであった。つまり、自分はあのフェージャ・リャーミンのおかげで、みじめな男になり下ってしまった。それというのも、彼女――すなわちカテリーナ・リヴォーヴナを、商人仲間ぜんたいの前に、天晴れ堂々たる御寮人様として押しだすすべを、今ではなくしてしまったからだ……というのである。そして、この口説にセルゲイがつける結論はいつもきまって、もしあのフェージャという者がなく、おまけに彼女――すなわちカテリーナ・リヴォーヴナが、良人の失踪の日からかぞえて九カ月に満たぬうちに、首尾よく赤んぼを産み落としさえしたら、資本は残らずごっそり彼女のものになって、そうなったらもう彼ら二人の幸福には終りも涯しもあろうはずはあるまいと、結局はそこに落ちつくのであった。
※[#ローマ数字10、1−13−30]
ところがその後、セルゲイはぱったり跡取り息子の話をしなくなった。セルゲイの口に、跡とりの話がのぼらなくなるや否や、フェージャ・リャーミンの面影は却ってはっきりと、カテリーナ・リヴォーヴナの脳裡にも胸中にも根をおろしてしまった。それのみか、彼女は物思いがちになり、当のセルゲイに対しても、愛想の
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