ヴンのお客さんがたは、気分《きーぶん》に障りやすぜ」――そう彼は、玄関の戸を後ろ手にしめながら、溜息まじりに洒落のめした。
「さてそこでと、一体どうしたもんですかな?」――とセルゲイ・フィリップィチが、カテリーナ・リヴォーヴナに問いかけたのは、二人がサモヴァルに向って腰をおろした時だった。――「どうやらこれで、ねえカテリーナ・イリヴォーヴナ、あっしらの大望もおじゃんですぜ。」
「なぜおじゃんなんだい、ええセリョージャ?」
「だってさ、これで何もかも洗いざらい、分け取りってことになるんでしょう。その挙句に残ったなけなしの物じゃ、さっぱり主人になり甲斐がなかろうじゃありませんかい?」
「おやセリョージャ、お前さんには少なすぎるとでも言うのかい?」
「いいや、べつにあっしにどうのこうのと言うんじゃありませんがね。ただちょいと心配なのは、そうなるとつまり、あっしたちの仕合わせにも差し響きはすまいかと、そんな気がするもんでしてね。」
「そりゃまたなぜなのさ? どうして仕合わせまでが消えてなくなるんだい。ええ、セリョージャ?」
「ほかでもありませんがね、あんたが可愛くって可愛くってならねえあっしの
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