部屋へ射しこむのだった。
 中庭をよこぎって、羊皮の半外套を肩へ引っかけ、あくびまじりに十字を切りながら、納屋から台所へ、年寄りの番頭がよちよち歩いていった。
 カテリーナ・リヴォーヴナは、紐であけたてする鎧戸を用心ぶかくそっと引くと、ふり返ってじいっとセルゲイを見つめたが、その眼はまるで彼の魂を見透そうとしているようだった。
「さあ、これでお前さんは、れっきとした商家の旦那だよ」と彼女は、セルゲイの肩にその白い両手をかけて言った。
 セルゲイは、うんともすんとも返事をしなかった。
 そのセルゲイの唇は、わなわなと顫えていた。カテリーナ・リヴォーヴナはどうかというと、唇だけが冷え冷えしていた。
 それから二日すると、セルゲイの両の手のひらには、鉄梃《かなてこ》や重たいシャベルを使ったらしく、大きなマメが幾つもあらわれた。その甲斐あって、穴倉のなかのジノーヴィー・ボリースィチは、すこぶる手際よく始末されて、こうなったらもう当の後家さんかその情夫の口を借りなければ、死人がみんな復活するというあの最後の審判のその日まで、誰にも嗅ぎつけられる気づかいはないまでになっていた。

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