すじの細い紐をなして、鮮血がながれていた。
「坊さんを……」とジノーヴィー・ボリースィチは、自分のうえに馬乗りになっているセルゲイから、さも厭らしそうに頭をできるだけ遠方にそむけながら、鈍い声でうめいた。――「ざんげが、したい」――髪の毛の下かげで次第に濃くなってゆく生温《なまぬる》い血を、横目で見やりながら、そろそろ顫えのつきはじめた彼は、一そうかすかな声で言った。
「大丈夫よ、そんなことしないだって」とカテリーナ・リヴォーヴナはささやいた。
「さあさ、いつまでこの人のお相手をしてたって始まらないよ」と、今度はセルゲイに向って――「もっとぎゅっと、その喉をお締めな。」
 ジノーヴィー・ボリースィチは、ぜいぜい声《ごえ》をもらしはじめた。
 カテリーナ・リヴォーヴナはしゃがみ込むと、良人の喉にかかっているセルゲイの両手を、じぶんのもろ手でぐいと押しつけ、耳をその胸に当てがった。沈黙の五分間がすぎると、彼女は身をおこしてこう言った、――「さあよし、往生したらしいわ。」
 セルゲイも立ちあがって、ふうっと息をついた。ジノーヴィー・ボリースィチは死んで横たわっていた。喉は締めあげられ、こめか
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