がしらで、床へ押しつけられていた。
「ちょいと押えていておくれな」――彼女は平気な声でセルゲイにそう囁くと、言葉なかばでまた良人の方へ向きなおった。
セルゲイは旦那のうえに馬乗りになると、もろ膝で相手の腕をおさえつけ、むんずとその手を、カテリーナ・リヴォーヴナの両手の下から相手の喉へかけようとしたが、とたんに思わずギャッと悲鳴をあげてしまった。じぶんの女房を寝とった男の姿が目にはいると、血なまぐさい復讐の一念が、ジノーヴィー・ボリースィチの体内に残っていた力のありたけを、一挙にふるい立たせたのである。彼は猛烈な勢いで身をもがくと、セルゲイの膝の下敷きになっている両手を引き抜き、それでセルゲイの黒い渦まき髪をひっつかみざま、まるで獣みたいに彼の喉もとへ咬みついた。が、その瞬間、ジノーヴィー・ボリースィチは一二度呻いて、がくりと頭を落とした。
カテリーナ・リヴォーヴナはまっ蒼な顔をして、ほとんど息も通わぬ有様で、良人と情夫の頭のうえに立ちすくんでいた。その右手には、ずしりと重い鉄の燭台が、重たい方を下に向けて、あたまの方で握られていた。ジノーヴィー・ボリースィチのこめかみから頬へ、一
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