ちていたが、こいつは一体どこから舞い込んだわけだろうな?」
 ジノーヴィー・ボリースィチは敷布の上から、セルゲイの細い羅紗のバンドを拾いあげると、その端っこをつまんで細君の眼のまえに突きつけた。
 カテリーナ・リヴォーヴナは、ちっともたじろぐ色もなく、
「お庭で拾ったんですの。丁度いいので、下紐がわりに使っていましたの。」
「なるほどなあ!」と、ことさら語気をつよめてジノーヴィー・ボリースィチは言い放って、――「おれも実は、そのお前さんの下紐のことで、何かと聞き及んでいるんだがな。」
「一たい何をお聞きになったんですの?」
「まあ、お前さんのいい事を色々とな。」
「わたしべつに、いい事なんぞありゃしませんのにさ。」
「まあいい、いまに分るさ、洗いざらい分っちまうさ」と、飲みほした茶碗を細君の方へ押しやりながら、ジノーヴィー・ボリースィチが答えた。
 カテリーナ・リヴォーヴナは黙りこくっていた。
「とにかくお前さんたちの一件はな、カテリーナ・リヴォーヴナ、すっかり明るみに出さずにゃ置かんつもりだよ」と、まただいぶ長く続いた沈黙のあとで、細君に眉根をしかめて見せながら、ジノーヴィー・ボリー
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