スィチが吐きすてるように言った。
「憚りさま、このカテリーナ・リヴォーヴナは、それほど臆病じゃありませんわ。大してびくついてもいませんですわよ」と、彼女はやり返した。
「なに! なんだと!」と、思わず声をあららげて、ジノーヴィー・ボリースィチが叫んだ。
「いいえ別に――みんな済んだことですわ」――と彼女は答えた。
「おいおい、ちっと気をつけたがよかろうぜ! お前いつのまにか、えらく口が達者になったなあ!」
「おや、口が達者になってはいけませんでしたの?」と、カテリーナ・リヴォーヴナは投げかえす。
「それよりかな、もうちっとわが身を省みたほうがよかろう、ということさ。」
「あたし何も、省みることなんかありゃしませんもの。そのへんの金棒引きが、あること無いこと口から出まかせに言いふらす。その中傷沙汰を、一つ残らずこのあたしが背負いこまなけりゃならないんだわ! そんな話って一体あるもんかしら!」
「ところが金棒引きどころか、世間にゃもう立派に、お前たちの色恋ざたが知れわたっているんだぜ。」
「あら、どんな色恋沙汰ですの?」と、今度は本気でさっと顔を紅潮させて、カテリーナ・リヴォーヴナが金切り
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