ると、駈けだしていった。半時間ほども彼女は戻って来なかった。その間に、彼女は自分でサモヴァルに火を入れて、それが済むと、飛ぶように差掛の上のセルゲイのところへ忍んで行った。
「ここにいるんだよ」と、彼女はささやいた。
「いつまで一体?」と、やはりひそひそ声でセルゲイが聞いた。
「まあ、なんて分らずやなのさ! あたしが言うまで、いりゃいいんだよ。」
そう言ってカテリーナ・リヴォーヴナは、手ずから男をもとの場所へ坐りこませた。
そうして差掛の上にいると、寝室のなかの様子がすっかりセルゲイには聞えて来た。またドアをばたんといわせて、カテリーナ・リヴォーヴナは良人のところへ戻って来た音がする。話し声も、いちいち手にとるように聞える。
「えらく手間どったじゃないか?」と、ジノーヴィー・ボリースィチが細君をとがめる。
「サモヴァルを立てていたんですの」と、彼女がすまして答える。
話がとだえた。ジノーヴィー・ボリースィチがフロックを洋服掛へかけている音が、セルゲイには聞える。やがて顔を洗いにかかって、鼻をかんだり、水を四方八方へはねかえしたりする音がする。おいタオルをくれ、と言う。それからまた
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