にカテリーナ・リヴォーヴナは、からだじゅうがむずむずして来た。
『いいや、これはもう』と、彼女は考える、――『どうあっても明日になったら、聖水をベッドに振りかけるよりほかに手がないわ。なにしろこうして、尋常一様でない変てこな猫に、見こまれたんだからねえ。』
ところで猫は、彼女の耳の上でニャゴニャゴ鳴きたてていたが、鼻づらをぬっと差し入れると、こんなことを言いだした、――『わしがどうして猫なものかよ! 滅相もないわい! さすがは利口なお前だけあって、まさしくお前の推量たがわず、わしはただの猫ではなくして、実は世間に聞えた商人《あきんど》ボリース・チモフェーイチじゃよ。わしが今このように落ちぶれたのは、ほかでもない、嫁女がわしに食わせおった馳走のおかげで、わしの臓腑がことごとくはじけ破れたからじゃ。それ以来』と、猫はことばをつづけて、――『わしはこの通り形《なり》が小さくなって、わしが実は何者かということのよく分らぬ者の眼には、猫と見えるような仕儀になってしもうた。ところでお前は、その後きげんはどうかな、ええカテリーナ・リヴォーヴナ? 戒律はよう守っておるかな? わしがこうして、わざわざ
前へ
次へ
全124ページ中51ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
レスコーフ ニコライ・セミョーノヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング