たり揺らめいたりしている有様は、火のような紅蛾のはげしい羽ばたきか、それともその木かげの草むらが、一からげに月の投網《とあみ》に引っかかって、あちこち泳ぎまわっているところか、と疑われるばかりだった。
「ねえ、セリョージェチカ、なんて素晴らしい晩だろうねえ!」と、くるりと振り返って、カテリーナ・リヴォーヴナは声高にさけんだ。
セルゲイは、くそ面白くもないといった顔つきで、一応あたりを見まわした。
「どうしたのさ、セリョージャ、そんなつまらなそうな顔をして? それとももう、あたしたちの恋なんか、あきあきしたとでもいうのかい?」
「つまんない事を言うもんじゃねえ!」と、セルゲイは素気ない調子で応じて、身をかがめると、さも面倒くさそうにカテリーナ・リヴォーヴナに接吻をあたえた。
「浮気なんだねえ、お前は、ええセリョージャ」と、カテリーナ・リヴォーヴナはつい嫉妬に口をとがらせて、――「だらしがないんだねえ。」
「よしんばそれが、ただの口説《くぜつ》にしたところで、おいらにゃ一向、身におぼえのないことさ」と、セルゲイは落ちつきはらった口調でこたえた。
「じゃ、なんだってそんなキスの仕方をするの
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