さ?」
セルゲイは、すっかり黙りこくってしまった。
「そんなのは、夫婦の仲でしかしないものだよ」と男の渦まき髪をいじくりながら、カテリーナ・リヴォーヴナは言いつのった、――「つまり、お互いに唇の埃を払いあうだけのことさ。お前、かりにもあたしに接吻するからにゃ、そらあたしたちの上の林檎の木からね、咲きたての花がポトリと地めんへ落っこちずにはいないようにするものだよ。」
「そらね、こう、こうするものさ」と、カテリーナ・リヴォーヴナは囁きざま、情夫のからだをぎゅっと抱きしめて、情熱に身もだえしながら唇を押しつづけた。
「ねえ、セリョージャ、あたしの言うことをお聞き」と、カテリーナ・リヴォーヴナは、暫くしてまた言いだした、「お前さんのことというと、みんなきまって浮気者だというのは、一体どうしたわけなんだろうね?」
「そんな悪口を言いふらす奴は、一体どこのどいつですかい?」
「だってさ、みんながそう言うもの。」
「そりゃ俺らだって、まるっきり惚れる値打ちのない女たちにゃ、煮湯をのましたこともありまさあ。きっとそんな時のことを言うんだろうなあ。」
「なんてお馬鹿さんなの、お前は、惚れる値打ちのな
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