は、匕首でもってぐさりとこの胸からそいつを切りとって、ひと思いにあんたのそのおみ足へ、叩きつけてやりたいと思うほどなんです。そうしたらもうその途端に、百層倍もこの胸のなかが軽くなることでしょうにねえ……」
 セルゲイの声はわななきはじめた。
「何さ、そのお前さんの胸のなかだの何だのっていうのは一体? あたしにゃそんなこと、面白くも痒くもありゃしないよ。もういいから、さっさとあっちへおいでな……」
「いいえ、お願いです、奥さん」とセルゲイは総身をわなわなと震わせながら、カテリーナ・リヴォーヴナの方へ一あし踏み出しながら言った。――「あっしは知っています、この眼で見ています、いやそれどころか、はっきりこの胸に感じもし、しみじみお察しもしているんです――あんたの境涯も、あっしに劣らず辛いものだということをね。ね、いいですか、今こそ」と彼は、全くかすれきったせいせい声で、――「今こそ、成るも成らぬも、万事あんたの手の振りよう一つなんですぜ、あんたの首の振りよう一つなんですぜ。」
「何を言いだすんだい? なにをさ? 一たい何しに来たというの? あたし、窓から身を投げるわよ」――とカテリーナ・リヴ
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