カテリーナ・リヴォーヴナは掛金をはずして、セルゲイを入れてやった。
「なんなのさ?」と彼女はきいて、そのまま小窓の方へ離れていった。
「じつはその、カテリーナ・イリヴォーヴナ、お願いというのは、何かちょいと読むような本が、お手もとにないでしょうか。退屈で淋しくって、まったくやりきれないんで。」
「わたしんとこにゃ、セルゲイ、あいにく本なんか一冊もないよ。わたしが第一、読まないもんでね」と、カテリーナ・リヴォーヴナは答えた。
「じっさい淋しいんでねえ」と、セルゲイは訴えるように言う。
「何がそう淋しいんだい!」
「まあ察しておくんなさい、どうして淋しがらずにいられましょう。ご覧のとおり若い身ぞらでさ、しかもここの暮らしと来た日にゃ、どっか修道院か何かにぶち込まれたも同然じゃありませんか。おまけに身の行く先でわかっていることといったら、いずれお墓の下で横になるその日まで、どうやらこうして話相手もない境涯のままで、一生を棒にふることになるらしい――ということだけですしねえ。時にや自棄っぱちにもなりますよ。」
「どうして嫁さんを貰わないのさ?」
「嫁をもらうなんて、奥さん、そう易々と言えるこ
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