ざいますよ。」
「うちへ来てから長いのかい、あの若い衆?」
「誰でございます? あのセルゲイのことでございますか?」
「そう。」
「おっつけ一月になりましょう。それまでは、コンチョーノフさんの店におりましたが、旦那に追んだされたんでございますよ」――と、そこでアクシーニヤは声をおとして、こう言い添えた、――「世間の噂じゃ、なんでも当のおかみさんと、出来あっていたとやら申しますよ。……いやはやもう、とんだ極道もんでございますよ、大それた奴でございますよ。」

      ※[#ローマ数字3、1−13−23]

 なまぬるい、牛乳のような薄ら明りが、町の上にかかっていた。ジノーヴィー・ボリースィチは、まだ堤防工事から帰ってこなかった。舅のボリース・チモフェーイチも留守だった。古い友達のところへ、名の日の祝いに招ばれていって、夜食は待たずに済ましてくれと言い残したのである。カテリーナ・リヴォーヴナは退屈まぎれに、早目に夕飯をすますと、例の屋根裏の小窓を押しひらき、窓の柱によりかかったまま、ヒマワリの種子を噛んでいた。店の者たちは台所で夜食をすますと、寝場所をもとめて中庭を思い思いに散っていっ
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