勝太郎のレコードには随分おもしろいのがある。諸君は一度こんなものを聞いて見ても、それが決して諸君の音楽鑑賞力の疵にならぬことは確である。諸君はすぐシューベルトが美しいと言うであろう。ガリクルチが綺麗だと言うであろう。しかし、それだから即ち『追分節』が美しくなくて勝太郎が綺麗でないとは言われない。それは話が別である。
 勝太郎レコードの声はかなり綺麗である。実際の声はどうだか知らないが、電気装置で煮たり焼いたりした末にレコードとなって出て来る声は、柔かで豊かで潤いがあって、聞いていて甚だいい気持である。レコードの事だからよくわからないが、まず大体で as[#「as」は縦中横] あたりから d'[#「d'」は縦中横] あるいは d'b[#「d'b」は縦中横] あたりまでが普通の声らしい。その間で曲によって多少音階を移調することも出来るようである。『大漁節』と『下総盆踊』とはその一例である。そして声は e''s[#「e''s」は縦中横] くらいになると、もはや多少の工風がいるらしい。アルトとしても音域の広い方ではないが、それでも少し練習すれば普通のリードにはさしつかえなくなるであろう。話に聞くと有名
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