由のあるところで、実際いろいろに変っている。そしてその事は音楽批評家にもピアノの師匠にも、まだあまり考えられていない。
 私は楽器は大体二つに分類されると思う。楽譜のとおりに弾けば、大体で楽譜のとおりの音の出る楽器と、楽譜のとおりに弾いても楽譜のとおりの音の出ない楽器である。風琴やヴィオリーネは前の方で、ピアノは後の方である。ピアノで或る曲を弾けば、その音は楽譜に書かれた音とはかなり違ったものになる。そしてそれは誰が弾いても同じ事である。
 たとえば今 c'[#「c'」は縦中横] の音を或る速さで二度つづけて弾いたとする。楽譜には同じ c'[#「c'」は縦中横] の音符が二つ書いてある。そしてこの二つの音は全く同じ c'[#「c'」は縦中横] の音だと批評家も師匠も聞いている。この事を疑った批評家をまだ私は知らない。
 しかしピアノの構造の上から考えて見れば、そんな事はあり得ない。この二つの音の間には、音の混雑から起る相当な音色のちがいがなくてはならない。ピアノは音響学的には甚だ粗末な機械で、音を止めるものはただ一箇のダンプァーだけである。そしてそのダンプァーは柔かなフェルトで出来ていて、平
前へ 次へ
全24ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
兼常 清佐 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング