音楽界の迷信
兼常清佐

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)些《すくな》くも

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)「|速く《アレグロ》」

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(例)※[#二の字点、1−2−22]
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    1 迷信

 音楽の世界は暗黒世界である。いろいろな迷信が縦横にのさばり歩いている。
 私はピアノを例に取る。私は楽器のうちで一番ピアノを愛する。私のこの愛するピアノを今しばらく例に取って見る。
 批評家はほとんど例外なしに言う。――パデレウスキーやコルトーのような大家の弾くピアノの音は非常に美しい。彼らのタッチは実に巧妙である。この美しい音は全く彼らのタッチから来たものである。彼らの鍛錬を重ねた指の技巧をもってしてこそ、はじめてこの美しいピアノの音が出る。普通の人々がそのタッチをまねて見ようと言っても、それは全然出来ない事である。この美しいタッチの技巧こそ、彼ら世界の大演奏家の生命である。そしてこのような名人の美しいタッ
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