の中に割りこんで聞き耳を立てた。
父の話は、私が昨夜見たものと全く同じだった。
「怪しい、ふしぎな家だ。ウーム」
語り終った父は、腕をくんで考えこんでしまった。私はいつか母の腕にしっかりとすがりついていた。
「幽霊屋敷ですよ。いやですわ。あなたは馬鹿に趣味のこった良い家が見つかったなんておっしゃいましたが、私はこの門に着くなり、いやァな気がしましたよ。かや[#「かや」に傍点]だって台所に長くいると、なんだか寒気がしてくるといってますよ」
母がかや[#「かや」に傍点]の顔を見ながら言った。するとかや[#「かや」に傍点]も、
「ええそうですわよ。旦那様、たしかに幽霊屋敷ですよ」
と、生きた心地が無さそうに、身をふるわせながら言った。
「うん、そういえば、僕も夕方庭のいちじくの木の影に、黒い着物を着た老婆とも老人ともつかぬ人影のたたずんでいたのを感じたですよ。それですぐに見えなくはなってしまったのですが。……どうもふしぎですよ」
と、さすがに書生の徳吉も、気味の悪そうな顔で辺りを見廻した。
3
翌朝は、からりと晴れた、まことに気持のよい秋晴れの天気だった。
赤
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