わびて昔のつたえ――は……というロレライの音楽につれ、夢声氏の名説明で、エルモ・リンカンのターザン、エニット・マーキーの娘、情緒豊かなこのターザン映画は非常に美しく、僕には詩情を感じ、むしろ今日のターザン映画より感めい深いような気がしてならないのである。
 西部劇は当時も相当な流行で、二挺拳銃をさっそうとかまえる、ウイリァム・S・ハートの勇姿、アリゾナやユーコン河を背景に、西部の荒男が娘の純情と誠実に自分の恋をあきらめ悪人をたおし、彼女の好きな男と手を握らし、夕日をあびてトボトボと愛馬を引き小さく消えて行くフェード・アウトのラスト・シーン。馬より長いエス・ハートの顔は、まったく僕等の英雄であったかもしれない。また白馬にまたがり、アリゾナの原野をかけめぐる、トモ・ミックスの壮快な姿は今も眼にのこり、サイレントで銃声は聞えねど、それより大きくせまってきたのは、どういうものであろうか。私はサイレント映画の魔術が今だにわからぬ。
 美術学校時代には、映画芸術を語り、まかりまちがえれば映画監督にならんばかりの意気ごみであり、もっぱら欧洲映画にこり、「キーン」のフラッシュ・バックに驚嘆し、「ニーベ
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