春の花のように、けんらんとスクリーンをうずめ出したのは、ユニヴァーサル映画会社のブルーバード映画、バタフライ映画であった。つぼみが春の風にさすられて、少しづつ開かんとする感傷的な少年の胸には、この甘美な抒情詩のような美しい恋物語りが、まるで優しく胸をふくらましてくれたのである。
泉天嶺氏の、いまだにのこる名説明。
春や春、はる南方のローマンス……
と、うたわれた、あのブルーバード映画時代なのである。
マートル・ゴンザレス、エラ・ホール、プリシラー・デン、リリアン・ギッシュ、ムンロー・サルスベリ、ケーネス・ハーラン、ETC、ETC、まったく花を競うスター達リンゴの花の散るようなブルーバード映画、僕をたいした不良少年にもならずに救ってくれたのは、もしかするとこのブルーバード映画であったかも知れない。銀座裏の金春館、花園橋の花園館に松井翠声氏の説明を陶然と聞きながら眺めた、オレンジ色のアルハベットの字幕はいまでもなつかしい。
ターザン映画を最初に見たのは、やはり葵館で、三十何年前のターザンは、美しく調色され、淡い光の中からかすかにわき起る、……何に――かわ知ら――ネ――ど――心――
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