扮する女優が真っ裸にゴムのような真っ黒な肉じゅばんの黒装束で、あわやという時にはスルスルとドレスがぬげヌルヌルに光る黒肉じゅばんで難をのがれるその色香のにおうような美しい姿に魅せられ、僕はそのプロマイドを大切に胸に秘めたようなありさまであった。その素晴しい女優の名をわすれてしまった。徳川夢声さんに会ったらわすれずに聞こうと思っている。
伊太利女優の、ピナ・メニケリの豊艶なあで姿は、一幅の泰西名画が動きだしたようで少年の心うちでもその芸術性は、うなずけるような思いであった。「火」「ふくろ」なぞの青色や紅紫の染色にそめられた宝石のような色調の美しい淡い光りは、いまだに眼にのこり、フランチェスカ・ベルチニイの立派なあごから胸へ、胸から腰部へ流れるやわらかい線は、まるで幻想の図の出来事のようでたまらぬ想い出である。
ロシアの名女優、アラ・ナヂモバの異国的な情熱さと、東洋的な面ざしに僕は詩情さえ感じたのである。「レッド・ランタン」のファンタスティクのシーンは素晴しいものであった。
この頃、若い少年期の青春発動を自分でもたまげるほど驚いた馬鹿にセンチメンタル時代に、連続映画にかわって、まるで
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