に上気してスクリーンのパールに気もそぞろであったのです。それは「拳骨」という、シャルトン・ルイズの演ずるハンケチで顔を覆い、いつも拳骨をにぎる兇悪な悪漢とその乾分におそわれるパールの運命やいかに? と次週へのお楽しみという連続映画に引かされ毎週毎週通いつめるのは、まるで恋人とのあいびきのような甘い雰囲気であったのです。パール物は続々と上映され、ついには映画ファンである両親につれられ、当時映画劇場としては立派な赤坂溜池の葵館へと出かけ、赤坂の名妓なぞと二階の特等席でアイス・クリーム(ラムネではありませんぞ)を喰べながら徳川夢声さんの名説明で、「運命の指輪」「鉄の爪」「呪いの家」に心を踊らした想い出は、今もなお心の奥にほのぼのとよみ返って来るではありませんか。当時夢声老は二十何歳の青春の頃であったでしょう、声はすれども姿は見えずなれど周囲の赤坂の名妓連が、
「私! 夢声におかぼれしているのよ」
と、ささやいているのを聞いても、さぞかし女にもてていた頃でありましょう。
この時代には、連続映画黄金時代で、エラ・ホール主演「マスタキー」、チャレス・ハチソンの「ハリケン・ハッチ」、繩ぬけ名人ハ
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