足袋が出た。シーンとした中で白い足袋が目についたと思ったら、ポカッとなぐられた。そのうしろにボクの母親がいた。その母親が、
「このバカ息子!」
 と、どなって、女房に、
「もっとぶんなぐれ、癖になる」
 そしたら、女房がまた元気を出してボクをなぐった。
 ボクはそのまま逃げてしまった。しようがなくて義理の兄貴のところに行って頼んで帰ったような始末でしたが、その母親がボクにつかないで、バカ息子といって私をなぐらしたということが非常によかった。それだからうちの母と家内がうまくいった。嫁と姑という関係が非常によくいきまして、女房はうちの母を立てた。家庭はなごやかにできたんで、いま考えるとなぐられたということが私はよかった。そんな気がする。
 しかし亭主がなぐられたということは、これはいけないことなんで、夫婦というものは最初にやられた方が負けなんで、それがボクにはいまだにつきまとっていて恐いんです。
 それからボクはこのごろ世間でいう「恐妻」という言葉がありますが、妻を恐れるということはやはり一つの愛情なんで、妻を愛するからとか、[#「からとか、」は底本では「からとか 」]夫を非常にいたわって
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