、ピアノの中村八大の神技には人が楽器か楽器が人か、この時ばかりは、ポッポちゃんをうらむことをわすれてしまい、幕がおりてもしばし茫然。[#「茫然。」は底本では「茫然」]
 ジャズの本場アメリカで十七年間活躍していた、トミー・パーマがサクソフォンを口に指揮するために入れかわり立ちかわり、黒人女歌手、ジニー・ジョンズが黒い胸を張りきらして、うれいをおびたその美しい声音は劇場内になりひびき、客席をうっとりさせ、最後にマニラのビング・クロスビーといわれ、滞米中に、クロスビーが、彼のことを五十年に一人現れる声量と性的魅力を持つ歌手と称したビンボ・ディナウが、白いシャークスキンのスマートな姿でニコニコと現れるや、「ビンボ、ビンボ、ビンボ」と客席がどよめいた。
「ワタシ、ニポン人皆様スキ、ビンボーネ、ノーマネーネ……」
 と笑わせて歌う数曲、キス・オブ・ファイヤ、ゴメンナサイ、ポッポちゃんなぞ、夢遊病者のようで、いやポッポちゃんどころか、僕をも夢中にした。
 最後に日本語で唄う支那の夜の節廻し、まったく魂をぬかれる思い、うっとりしているひまに幕がおりてしまったのである。
 明るくなって来た客席を見ると
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