れたものです。
何時ともなく、この問題の夜の街に現われて見たのです。岡の上に絢爛と不夜城の如くそびえる、銀座にもめずらしいというキャバレーカスパの豪華な入口にユニフォームも素晴しいボーイに送られて、恐る恐る肌もあらわのダンサー達の中に座をしめたのですが、なるほど、天井も高くまるでこの世のこととは思えぬ美しいキャバレーで、ありとあらゆる洋酒のビンがまるで壁の柄の如く飾られ、数人のバーテンダーが腕をまくり、よきハイボール、カクテルをいざ作らん意気込みであるのですが、この向うの霞むような広いホールに二、三人の水兵さんが、ゆらゆらと腰をゆすってマンボ踊りかなんかをやっているだけで、なるほど灯の消えたような淋しさ。そのかわり外人専門のこのキャバレーでも、美しいダンサーに取まかれるというチャンスを得たこの旅人は、何が幸せになるかわからぬといった風に、ハイボールを心地よくのみほしているのである。
「私は北海道よ」
「私は東京よ」
「ミーは大阪」
「この頃東京の盛り場は、ど――オ」
「しごく盛んで景気がいいよ」
「帰りたいわ」
「モー、サセボも駄目よ」
「不景気なんですもの、私達には休戦が一番いけ
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