れたものです。
何時ともなく、この問題の夜の街に現われて見たのです。岡の上に絢爛と不夜城の如くそびえる、銀座にもめずらしいというキャバレーカスパの豪華な入口にユニフォームも素晴しいボーイに送られて、恐る恐る肌もあらわのダンサー達の中に座をしめたのですが、なるほど、天井も高くまるでこの世のこととは思えぬ美しいキャバレーで、ありとあらゆる洋酒のビンがまるで壁の柄の如く飾られ、数人のバーテンダーが腕をまくり、よきハイボール、カクテルをいざ作らん意気込みであるのですが、この向うの霞むような広いホールに二、三人の水兵さんが、ゆらゆらと腰をゆすってマンボ踊りかなんかをやっているだけで、なるほど灯の消えたような淋しさ。そのかわり外人専門のこのキャバレーでも、美しいダンサーに取まかれるというチャンスを得たこの旅人は、何が幸せになるかわからぬといった風に、ハイボールを心地よくのみほしているのである。
「私は北海道よ」
「私は東京よ」
「ミーは大阪」
「この頃東京の盛り場は、ど――オ」
「しごく盛んで景気がいいよ」
「帰りたいわ」
「モー、サセボも駄目よ」
「不景気なんですもの、私達には休戦が一番いけないよ」
私が東京へかえるのだというと、背のすらした銀色のイヴニングをピッチリ美しい姿体に張りきらした肉感的な女性が、
「こういう絵描きさん、知っている」
「知っているどころじゃない、飲み仲間だよ」
というと彼女は、すみませんがと手紙をたくされたのである。土地に不景気風が吹くと、思わぬところでメッセンジャーボーイなぞにさせられるものであるとつくづく考えさせられてしまったのである。
そういいますが、まだ夜の街は水兵で賑わい、まるで映画もどきのセーラーの喧嘩の華がところどころに演じられ、港サセボはなかなか華やかである。BARからキャバレーから夜の女の群へとさまよい歩いて見たのです。日本人専門のハーバーライトは、とてもこみ合って、港で儲けた旦那衆が美人を擁して踊りくるっていた。外人専門の米軍許可を得ている美妓のいる堀ハウスにもいって見たのである。愛らしい純大和撫子が蝶々さんのような和服を着かざったり、上海ドレスにきめの細かい雪の肌を包んで、若いアメリカ水兵さんのピンカートンぶりを愛していた。SASEBOKINもどこへやら、ここばかりは明るい光が窓に輝いている。なんとはなしに、かわいそ
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