かないのにね」
 うすあかりの中でかすかに洋ちやんの顔が笑つた。私もそれでほつとしてにつこりする。今度こそ! 今度こそ! と思ふ驛を汽車はおかまひなくすつとばしてしまふ。どの位たつたらうか。十分も一時間に思へる。今の私たちにはあまり長すぎる様な気がした。
 今か! 今か! と待つてゐるのに、あんまりすつとばすので心配になつて来た。
 が、それを云へば洋ちやんが可哀想だし、
「ねえ、もうじきねえ、きつと、もうすぐよ」
 と念を押す様な、たのむ様な声で云つてみる。
「うん……」
 しかし、洋ちやんは何を云つても、うん[#「うん」に傍点][#底本では「云つても、うん[#「うん」に傍点]」は「云つても、う[#「、う」に傍点]ん」]ばかりしか応へてくれない。長い/\時間がたつて汽車はやつと小田原へとまつた。町の燈で両側が明るくなつたときの私たちの嬉しさ。
「今度こそはきつと停つてよ。きつと……」と声をはづませて待つた。
 ホームへすべり込んだ時は、うれしくて胸がワク/\した。やつと汽車はとまつたが、機関車はホームを出外れてしまつたので、デツキから地面迄少したかい。しかし、もう、うれしくてたまらな
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