い私たちは、そんなことに気がつかなかつた。
 まづ洋ちやんが飛び下りる。私が洋ちやんの荷物をわたす。そして私も荷物をもつたまゝ夢中で飛び下りた。ホームの方へかけ出しながらみたら、向ふからお母様も走つていらつしやつた。
 お母様をみたら急に体中の力が抜けてしまひ、はりつめた気持がゆるんで泣きさうになつてしまつた。
「まあよかつた/\! おばあさんも、お母さんもとても心配したのよ」
 とおばあ様は繰り返し/\おつしやつた。
「洋ちやんが泣いてるだらう。おまへが困つてるだらう、と、とつても気をもんでたのよ。よかつたね」と頭をなでんばかりにおつしやる。
 私は一部始終をかたり、
「それどころぢやないの。洋ちやんとつても落着いてゝね、何を云つても、ウン/\しか云つてくれないもんで、私の方が泣きたくなつちやつたんですよ」
「ねー洋ちやん、トンネルん中、雨がふつて面白かつたわね」と私が笑ひかけたら、洋ちやんはみかんを食べながら、又、「うん」と云つた。



底本:「みの 美しいものになら」四季社
   1954(昭和29)年3月30日初版発行
   1954(昭和29)年4月15日再版発行
※底本は
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