して、みる/\うちに後にしてしまつた。
 さうだ! これは急行だつたんだ。私はがつかりして荷物から手を放す。
「これ急行だから中々とまらないわ、少し、しやがんでませう」と手をつないだまゝしやがみこんだ。外はもう、まつくら……遠くに海が光つてみえる。海岸に点々と赤い燈がつゞいてる。
「あら! きれいね」
 と云つてみたりするが、心はそれどこぢやない。ボーツと汽笛がすごく大きくきこゑて思はずつないだ手に力がはいる。汽車はトンネルへ這入つた。ゴウ/\とひゞきが壁にこだましてうるさい。中頃まで行つたらパラ/\と水玉がおちて来て、のぼせた顔にふりかかつた。後で考へたのだけれど、トンネル内の湧き水が汽車の進行でおちて来るものらしい。それにしても雨みたいだ。
 こりやたまらない、と車内に逃げ込まうと思つたが、戸は始めから開かなかつたのだ。つい二人とも口が重くなる、黙りこくつてゐると又こわい。ムリに云ひかけてみる。
「さむくない?」
「うん、大丈夫……」
「こわい?」
「うゝうん」
 これでおしまひだ。つぎ穂がなくて又もとの沈黙へ返つてしまふ。
「お母様たち心配してらつしやるわよ。ちつとも、こわくなん
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