つた。第一、私の名前を知られてるなんて夢にも思つてなかつたのである。
 鳩の豆鉄砲より尚甚だしかつたに違ひない。
「どうぞ、カイダイして下さい」
 カイダイ? カイダイ?
 呼ばれておどろいたばかりぢやない。変なことを仰せつかつた。仰せつかつたが、どうしていゝのかわからない。
 私は突差に立ち上つて云つたものだ。
「カイダイ……ッて何ですか」と。
 わーツとおこる爆笑の中で、私だけは生真面目にポカンとしてゐた。
 先生もゲラ/\笑ひながら、
「カイダイといふのは本について、何時、何があつて、どういふことがかいてあるかをしらべることです」と教へて下さつた。
 今までそんなことした事もなし、きいたこともないので、私はさう云はれて初めてわかつた。カイダイッて何ですか、ときいた位だから、やつてないのは分りきつてゐる。
 やつてありません、と云つてしまへばよかつたのだが、そこで私は失敗した。
 隣の智《とも》ちやんが、それどこぢやないといふ様に心配して、これをみろ、これをみろ――とばかりに私の腕をつゝついて、自分のノートを差出してくれた。あまりさゝやくので智ちやんのノートをみたが、何年とか、なん
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