聞をよんでいらつしやる。信ちやん康ちやんもそれ/″\何かしていらした。私は一人ポツンと坐つて何かおちつかない気持でゐた。夕方の臭ひがして来る。私は家の皆のことを思ひ出してゐた。
「今頃みんな何してゐるだらう……夕食の用意してるのかなあ、お父様はお帰りになつただらうか」
 それからそれへと考へ始めると、私はもうたまらなくなつた。無性に帰りたくなつた。
 私はほんとにたまらなく淋しく、不覚にも涙さへ出てくるのだつた。とび出しても帰りたかつた。
 その中にお夕飯が始まつた。御馳走もちつとも美味しいとは思はなかつた。皆さんはほんたうに朗らかで、いろ/\と私のことも気をつかつて下さり、客としてこんな居心地のいゝおもてなしは中々ないほどの厚遇をうけながら、やつぱり私はほんたうに皆さんと一つになり切らなかつた。叔父様叔母様の朗らかな、やさしいお態度、芳子ちやんや信ちやん方のしたしい、仲のよい御様子をみるにつけても、なにかこの場にそぐはない、自分だけ違ふ者の様な気がしてならなかつた。
 しかし、それも始めのうちだけで、段々皆さんの親切なおもてなしのうちに、知らずにつりこまれて笑ひもし、遊びもした。その
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